江戸職人の粋と意気
気品と風格を備えた江戸桶は、江戸文化が生み出した実用品
江戸桶 桶栄
すし桶、湯桶、洗い桶、花桶など、桶といっても多種多彩だが、桶栄はもともと江戸櫃(えどびつ)が専門。
「昔から江戸櫃をつくる結桶師は、一段上に見られていました。特に高い技術を要求されることと、お米という日本人にとっては特別な意味のある食べものを入れる桶ですからね」と、桶栄四代目・川又栄風さん。昨年、3代目の父を亡くし、今は一人で老舗の桶店を支えている。
そんな四代目のつくる白木の江戸櫃は、触るとすべすべしていて柾目も美しく、香りもいい。
素材は樹齢三百年を超える木曽産の良質の椹(さわら)。水気をよく吸い、木の香りがご飯に移りにくい。柾目が詰まっているため保温性が高い。お櫃には最適の木材なのだ。夕飯の残りご飯を一晩おけば、水分が程よくとれて、さらにおいしく食べられる。冷めても旨い。
近年になって、そんなお櫃の効用が見直されて、桶栄の江戸櫃はさらに評判を呼んだ。
ちなみに桶にも土地柄があり、タガが太くて無骨な秋田のもの。華奢で優美な京都のもの。それに比べて、程よい嗚呼積みと実用性を誇るのが、江戸桶で、お櫃に蓋を付けて保温性を高めるのも、実用を重視する江戸人の知恵。
サワラの原木を柾目に削って、半年天日で乾燥させ、さらに室内で乾かし、ようやく下準備を終える。その後、側板を削り、貼り合わせ、底板とタガをはめて、完成までにおよそ20工程。原木の丸太切りから、すべて手づくりで仕上げる。
祖父のつくった洗い桶「丁寧に扱えば、三十年は保ちますが、使い方によっては木がやせて、タガが緩んだり黒ずんだりします。そんなときは責任をもって修理を受けています」と語る川又さん。しかし、「大切に使っているかどうかは、みればすぐわかるし、ものを通して家庭の素顔が見えてくる」という。
最近はやりの「もったいない」ではないが「勿体(もったい)」とは「ものものしい様子や態度」を意味するとともに、「人の態度や品格」を表した言葉。一般的には「ものを粗末にすること」をいうが、それは同時に、人としての品格を否定することでもあった。江戸の文化に培われた「もったいない」の精神こそ、江戸の粋というものではないだろうか。
この取材記事は2007年のものです。
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